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2023年7月13日【イベント】

アリックスパートナーズ、自動車業界の展望レポートを発表

坂上 賢治

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アリックスパートナーズは7月13日、世界の自動車業界の展望レポート「2023年版グローバル自動車業界見通し」を発表した。

 

同レポートでは、中国政府主導の長期かつ大規模なEV支援、EVの成長を見越した相次ぐ新規参入、顧客が好むデザイン性や高度なテクノロジーの積極的な採用などを背景に、国内OEMが加速的に成長している事。これが世界の業界構図を塗り替える可能性があることを指摘した。

 

現段階では、こうした中国OEMの勢いは中国外には及んでおらず、むしろ従来のOEMはテスラのイノベーションの脅威に注視している。アリックスパートナーズは、中国OEMがきっかけとなって起こりうる未来のディスラプションに対抗し、逆にチャンスを掴むためには、旧態依然のOEMはこれまでの業界アプローチを根本から変える必要があると示唆した。

 

また今日の自動車産業は、パンデミック当時にあった価格決定力が失われつつあることが明らかとなったとしている。例えば、米国での平均販売価格は生産の安定化、在庫の積み上がり、金利上昇などを背景に2025年までに7%下落すると予想。

 

世界の販売台数は、2023年には前年比5%増加し2019年の水準近くまで回復すると予想している中で、欧州ではパンデミック以前の水準には戻りそうにないとした。

 

従来のOEMが、競争に打ち勝つためのマインドセットとは

 

アリックスパートナーズ自動車・製造業プラクティスのグローバル共同リーダーのマーク・ウェイクフィールド氏は「パンデミックの影響は後退したかもしれませんが、自動車業界は既存の競争構図やビジネスモデルを脅かす新たなテクノロジーや競争要因に早急に対処しなければならず、かつてないプレッシャーに晒されています。

 

こうした状況に対応し、将来の顧客にアピールするためには、これまでの主要製品の開発や製造についての考え方を見直すなど、企業は優先順位の思い切った見直しを行う必要があります。

 

しかしながら、これは既存とのトレードオフを意味し、また市場投入までのスピードを新たな次元で高めることとなり、これまで以上に大きなリスク許容を必要とするでしょう。

 

自社生産、あるいは他社との提携に於いても、『CASE』(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)技術に注目すべきです。

 

中国OEMは、魅力的な価格帯で、従来のOEMよりも速いペースでCASEを自動車に組み込むことに注力しています。従来のOEMが競争に打ち勝つためには、こうした新しい技術を中心に据え、スタートアップ企業のようなリスクテイクのできるマインドセットでビジネスに取り組む必要があります」と語る。

 

将来を先導しうる勢力を無視する企業は、自らを危険にさらしている

 

一方、アリックスパートナーズのマネージング・ディレクターで自動車・製造業プラクティス日本チームリーダーである鈴木智之氏は「自動車業界はここ数年、テスラのイノベーションに注目してきましたが、今こそ中国EVメーカーの成功にも注目すべきです。

 

これらの企業は、成熟しつつある消費者に対して、新たなテクノロジー、魅力的なデザイン、デジタルを活用した顧客エンゲージメント、市場投入までのスピード、従来と異なる手頃な価格帯などの差別化した価値を提案しています。

 

こうした将来のディスラプションを先導しうる勢力を無視する企業は、どの国の企業であろうと自らを危険にさらしていると言えるでしょう」と話す。

 

今レポートでは、これらを前提に今後、変革を迫られる旧来のアプローチとしては以下の2つを挙げた。

 

旧来の「エンジニアリング主導型」: 真の顧客主導型になっておらず、製品開発プロセスからの脱却ができず、業界が長年蓄積した課題に挑戦することができない。結果として、今の顧客が評価しない機能や装備を追求し、生産遅延や過剰支出を許す。

 

慎重すぎる企業姿勢: 新たなテクノロジーの採用や市場投入のスピードに欠ける。
新規参入組が懸念する必要のない足かせ: 仲介業者(新規参入組は消費者直接販売モデルを採用)やICE向け既存の製造能力の高いサンクコストなどが存在する。

 

上記の旧来的なアプローチは、乗り心地やNVH(騒音、振動、ハーシュネスの最小化)といった車両特性を追及するあまり起こり得る。加えて、製品開発と調達に対する旧来のアプローチは、柔軟性に欠け、市場への投入を遅らせ、最適とは言えない設計を特徴とする自動車づくりに留まらせている。

対して中国EVメーカーは海外メーカーと比較して、高度なテクノロジーに精通した新しい顧客が求める自動車を、購入可能な価格帯で提供すると共に、自動車の販売と所有のプロセスにおいてデジタルを活用した顧客体験とエンゲージメントを実現している。

 

例えば、中国で最も販売台数の多い中価格帯セグメントに於いて、中国EVメーカーのADAS(先進運転支援システム)機能の普及率は海外メーカーよりも11%ポイント高い値(68%対57%)を示している。

 

また中国EVメーカーはモデルチェンジのスピードが速く、ICEが主体である海外メーカーの市場投入年数が4.2年であるのに対し、中国EVメーカーはわずか1.3年となっている。

 

更に以上を前提に、自動車業界が注視すべき事象として以下の3つを挙げている。

 

(1)内燃機関車(ICE)は急ピッチで衰退: ICEの販売台数は、米国では繰り越し需要によって今年は6%増加するものの、その後停滞し、2027年までは毎年4%減少すると予想される。結果、EV向け投資に仕向ける利益やキャッシュフローは短期的に圧迫されるとみている。

 

(2)中国OEMが業界のペースメーカーになる: 中国では2023年に数十年ぶりに中国OEMが海外OEMの販売を上回る(国内シェア51%、うち32%がEV)。中国メーカーは2030年には市場の65%を占め(うち、58%がEV)、2050年に向けて年間5,000万台超の水準に向かうと見込まれる。中国で勝ち残ったビジネスモデルが、グローバル市場で成功する雛形となる可能性がある。

 

(3)自動車業界の環境は複雑さを増している: 米国の自動車業界は、2023年も3.5%の労働インフレによって圧迫され、価格決定力の欠如により、世界の大手サプライヤー300社の純負債は前年比で300億ドル増加する。

 

更にサプライヤーのインタレスト・カバレッジ・レシオは18%まで低下しており、キャッシュを絞る必要がでている。同時に、世界の自動車メーカー大手25社の純負債は減少する。

 

これは、自動車メーカーが最高益を記録したために余剰資金でリボルビング・ローンやその他の負債を返済したことによる影響。しかし、米国の自動車メーカーは、コロナの影響を受ける前と比べ、生産台数1,000台あたり25%増の従業員を必要としており、パンデミック以前のレベルにはまだ回復していない。

 

2023年以降の世界の自動車市場の見通しとしては以下を示した。

 

– 欧州の販売台数は、前年比6%増となるが、2027年まではコロナ以前の水準をはるかに下回って推移する。

– 中国の販売台数は前年比3%増となり、2050年まではブレがあるものの総じて力強い成長を遂げ5,000万台を超える。

– 米国での販売台数は、長期的な労働ストライキがないと仮定して、前年比10%増の1,520万台となる。しかし、購買力が長期的な成長を鈍化させ、パンデミック以前の水準以下にとどまる。

– EVに搭載される半導体の量は多いが、半導体企業による割り当てと効率化により、自動車メーカー向け供給が増加する。2023年は世界の自動車生産台数8,500万台までは生産可能で、完全に供給制約が解消されるのは2025年になるとみている。

– BEVは、2035年までに世界の主要地域での販売台数の大半を占める。

– また併せて、中国EVメーカーが台頭し、グローバル市場においても大きな影響力になり、いずれは自動車業界においてテスラに代わる競争目標になる可能性もあると指摘している。

 

最後にアリックスパートナーズが示唆した今ハイライトは下記5テーマとなる

 

◎ 2023年の世界の自動車販売台数は前年比5%増の8,310万台となる。その後、2024年から2027年の間は年率3%で成長するが、コロナ以前の水準を超えてプラス成長を記録するのは中国、南米、新興国。米国はコロナ以前の水準まで回復するが、日本と欧州はコロナ以前の水準以下で推移する。

 

◎ 世界の自動車販売を占めるEV(BEV+PHEV)の割合は2027年に30%、2035年に61%まで拡大すると予想される。地域別には、米国で59%、中国は66%、欧州は82%と5割以上を占めるようになる。日本でもEV化は短期的には軽EV車のローンチ・補助金継続、中期的にはICE規制やTCO低下を主なレバーに2025年に8%、2030年は20%、2035年は39%まで進むとみている。

 

◎ 日本では自動車販売台数は2022年を底に2024年まで回復基調を辿る見込みだが、長期的には人口減少を背景に市場は縮小し、2024年の約500万台から2030年までには450万台まで落ち込むと予想される。

 

◎ 中国では2023年に数十年ぶりに中国の自動車メーカー(OEM)が海外OEMの販売台数を上回って推移する。今後もこの勢いで伸長すると仮定すると、中国OEMの事業モデルが欧米市場で通用する可能性がある。

 

◎ 中国OEMとの競争に打ち勝つためには、従来のOEMは最先端なテクノロジーを採用し、スピーディーに製品を市場に投入するとともに、顧客中心主義の見直しが必要である。しかし、これには今まで以上に大きなリスクが伴う。

 

 

 

 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。