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2024年1月30日【トピックス】

豊田会長はトヨタグループを信頼される企業群に再生できるか

山田清志

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トヨタ自動車の豊田章男会長は1月30日、トヨタの発祥の地とも言えるトヨタ産業技術記念館で「トヨタグループビジョン」を発表した。そこには具体的な数値目標はなく、「次の道を発明しよう」と、当たり前のことが5項目書かれているだけだ。トヨタグループは日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機と不正が相次ぎ、その信頼は地に落ちたと言っていいだろう。そんなトヨタグループを豊田会長は立て直すことができるのか。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

最初にお客の信頼を失ったのはトヨタ自動車だった

 

豊田会長が行った「トヨタグループビジョン」の説明会は、まずトヨタグループの歴史から始まった。その系譜を示しながら、グループがどのように大きくなってきたかを説明した。しかし、その過程でさまざまなひずみを生んでしまった。

 

 

「自動車産業が発展し、グループ各社が成功体験を重ねていく中で、大切にすべき価値観や物事の優先順位を見失う状況が発生した。最初にその事態に直面したのが、他でもないトヨタ自動車だった。もっといいクルマをつくる、それよりも台数や収益を優先し、規模の改題に邁進した結果、リーマンショックにより創業以来初めての赤字に転落、さらには世界規模でのリコール問題により、最も大切なお客さまの信頼を失うことになった」と豊田会長は話す。

 

かつて豊田会長の父親である豊田章一郎氏をインタビューした時、こんな話をしてくれたのを思い出す。1990年代初め、トヨタ自動車が「トヨタ基本理念」を制定した時に、どのような企業を目指すのか聞いたら、章一郎社長(当時)は「徳のある会社だ。それを忘れてしまったら、存在する価値がなくなるだろう」と答えた。道徳的に優れ、周りから信頼され、尊敬される企業にならなければいけないというわけだ。

 

今のトヨタグループはそれからほど遠く、不祥事のオンパレードである。21年にトヨタ自動車系列の複数の販売店で車検時の不正が発覚。排ガスや速度計の検査を省略し、虚偽の整備記録を作成などしていた。その後、水増し請求も明らかになっている。

 

22年には子会社の日野自動車でエンジンの認証試験での不正が発覚。23年3月にはグループの源流会社である豊田自動織機でフォークリフト用エンジンの性能試験で不正があった。同年4月には100%子会社のダイハツ工業が側面衝突試験の認証申請で不正行為があったと発表。その後、これらの会社には他にも不正があったことが明らかになっている。さらに、愛知製鋼が同年5月、顧客が求める許容範囲内の誤差よりも長い鋼材を出荷していたと発表した。

 

そのほか、不正ではないが、グループ最大手のデンソーが生産した燃料ポンプの不具合から大規模なリコールが発生している。24年1月までに対象が30車種を超え、国内でのリコール台数は計約430万台に上っている。しかも、昨年7月に鳥取県内でその燃料ポンプを搭載したホンダ製の軽自動車がエンジン停止後、後続車に追突される事故が起こり、1人が死亡している。

 

トヨタ生産方式の目的は効率ではない

 

このように、トヨタグループでは問題続出で、豊田会長としても何か手を打たなければならないと考えたのだろう。そこで、トヨタグローバルビジョンを策定し、30日の説明会に先立って、グループ企業17社の社長と幹部らを集めてビジョンを説明した。

 

そのビジョンは「次の道を発明しよう」との目標の下、「誰かを思い、力を尽くそう。」「仲間を信じ、支えあおう。」「技を磨き、より良くしよう。」「誠実を貫き、正しくつくろう。」「対話を重ね、みんなで動こう。」という5つのことが書かれている。そして、豊田会長は「現場が自ら考え、動くことができる企業風土の構築に一歩進み始めたい」と話し、主権を現場に戻すことを強調した。それぞれの企業で、自らの企業にふさわしい解を見つけてほしいということのようだ。

 

それでは説明会の後に行われた、主な質疑応答について紹介しよう、やはり、グループでの不正についての質問が相次いだ。

 

――トヨタグループで今、不正が相次いで発覚しているが、それをどう受け止めているのか。

 

「日野、ダイハツ、豊田織機の問題すべてに共通することは、認証試験において不正があったということだ。認証試験というものは、安全と環境分野においてルールに沿った測り方で基準に達成しているか確認する制度であり、基準を達成しなければクルマを生産、販売することができない。しかし、認証で不正をしながら量産し、販売してしまったことが起こった。認証不正はお客さまの信頼を裏切り、認証制度の根底を揺るがせるきわめて重いことであると受け止めている。グループの責任者としてお詫び申し上げる」

 

――各社の調査報告書を見ると、効率を追求して認証を簡単に通したいということで不正に手を染めたという記述が多いが、トヨタ生産方式の考えを重視して効率を求めすぎた結果、不正が起きたのではないか。

 

「トヨタ生産方式の目的は効率ではない。その目的はカイゼンが進む風土をつくることだ。いかなる企業であっても必ず問題というのは起こる。トヨタ生産方式の考え方の中に、異常管理というものがあり、何が異常かを明確にして、その限度を超えたことをまず直していく。そのカイゼンのサイクルを回していくというのがトヨタ生産方式の目的だ」

 

――グループ内でこれ以外にも不正があるのではないかと疑っている人も少なくないが、どうなのか。

 

「私の知っている限りはない。ただ、各社の発表時期が遅くなったと思う。日野は私が不正を知ってから1年以上後に世間に発表した。ダイハツは6カ月、豊田織機も10カ月ほどかかった。もし私が初めから把握していたら、それより前に発表したと思う。今回、私がトヨタグループの責任者として名乗りを上げたことによって、『こういうことも言ってもいいんだな』という安心感みたいなものにつながるといい」

 

豊田会長がグループ17社の株主総会にすべて出席

 

――これからグループの変革を進めていくうえで、ダイハツや豊田自動織機などの経営責任をどのように考えているのか。

 

「トヨタは14年前に一度潰れた会社だと思っている。今回いろいろな不正を起こした3社は、やってはいけないことをやったわけなので、会社を作り直すぐらいの覚悟でやらざるを得ないと思う。今までの仕事が無駄にならないように、それぞれの会社の強みを生かしてほしい。『この会社でよかった』と思えるような変革の仕方を探していくことが、責任者の私としてやっていくべきことではないか。私が責任者であるということを明確にした以上、相談にも乗っていく」

 

―― ダイハツはトヨタの完全子会社で、社長や会長も派遣しているのに、不正を見抜けなかったのはなぜか。自身の責任についてはどう考えているのか。

 

「私自身、社長として14年間やってきたが、平穏無事ではなかった。赤字で引き継いで、リーマンショック、リコール問題、東日本大震災、タイの洪水など、いろいろな危機が連続してあった。正直に言ってゆとりがなった。トヨタを何とか立ち上がらせるだけで精一杯で、見てなかったというよりは見られなかった」

 

――グローバルビジョンで強調したいことは何ですか。

 

「まず『次の道を発明しよう』には、言葉の中に現在、過去、未来があると思っている。『次の』というのは未来で、『道』というのは現在、そして『発明』というのがトヨタの原点である。私が社長になった時、『もっといいクルマをつくろうよ』というビジョンを掲げたが、『具体的でなく、何を言っているのか分からない』『もっといいクルマってどんなクルマですか』とよく聞かれたが、それはみなさんが考えることだと言った。その結果、いろいろなクルマが出てきたと思っている」

 

――トヨタグループの責任者として、どんなことに取り組もうと考えているのか。

 

「まずはグループ17社すべての株主総会に出席する。『一度、株主の立場としてそれぞれの会社を見る』と各社に伝えている。株主総会の日程も各社が重複しないように設定する。株主総会まで数カ月あるので、その数カ月でどういうことを考え、何をしたか、など意見交換をしていきたい」

 

いずれにしても、不祥事を起こした企業はその防止策を含めて具体的にどのように行動したか豊田会長に問われることなる。ただ、企業の体質や風土を変えることは非常に難しい。会社を作り直す覚悟が必要とのことだが、トヨタグループがお客をはじめ周りから信頼されるようになるには時間がかかりそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。