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2022年4月22日【オピニオン】

ダイハツの介護施設への共同送迎サービス、本格販売へ

坂上 賢治

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正式なサービス名は「福祉介護・共同送迎サービス・ゴイッショ」

 

ダイハツ工業(以下、ダイハツ)は4月22日、全国の地方自治体(市区町村)並びに、高齢者を対象とする通所介護事業者に対して、施設への送迎業務を共同化する仕組み〝ゴイッショ〟の販売を開始し、このサービスに係るオンライン記者説明を行った。(坂上 賢治)

 

正式なサービス名は「福祉介護・共同送迎サービス・ゴイッショ」と言い、国内の自治体域内に点在している個々の通所介護事業所が目下、単独で行っている送迎業務(自動車を使った介護高齢者の送り迎え)を介護の現場スタッフの稼働から完全に切り離し、全く別の外部団体(ダイハツが自治体に働き掛けて、個々の自治体毎に団体を新設する)に集約。この新たな団体が、各介護事業所の送り迎え業務を受託運行するサービスを指すもの。

 

 

同社は、この〝ゴイッショ〟のサービス立ち上げに際して、地域の介護事業者を統括する地方自治体へ一括送迎を実現させるためのノウハウを提案。併せて、独自の介護送迎AIで組み立てた運行管理システム(システムソフトウエア)を地域毎に最適化して提供する。

 

送迎業務の担い手となる外部団体は〝福祉有償運送〟の枠組み内での運行が求められるため、一般的には対象地域の非営利団体(福祉有償運送に基づく講習を受ければ、第1種運転免許保持者でも運行可能)が担う事になる。

 

何歳になっても自由に移動ができ、快適に暮らせる社会の実現を目指す

 

しかし市区町村によっては、適した非営利団体が見つからない時もあって、その場合は、近隣の交通事業が担うケースもあるという。

 

また介護送迎専用のAIアルゴリズムは、施設利用者の乗車負荷(障害の度合いなど)や希望時間を入力し、効率的かつ最適な送迎計画を示唆する。

 

 

送迎車両が実運行している最中は、利用対象者宅への到着や出発などをドライバーがアクション毎にスマートフォンの操作を介して送信する。この結果、リアルタイムで車両位置が把握できるようになるため、送迎遅延やキャンセル時の対処など、複雑な情報変更にも的確に応えられる。

 

なおこうした送迎サービスの取り組みあたっては、ダイハツが予てより行ってきた〝らくぴた送迎らくぴた送迎の説明動画 )から更に効率化を推し進めた。例えば送迎業務で空き時間が発生した場合、それを活用するべく「病院への送迎」や「スーパーマーケットへの訪問」等にも対応出来る仕組みも用意しているという。この空き時間の解消は〝ゴイッショ〟の大きなアドバンテージだ。

 

オンラインの記者説明会に登壇したコーポレート事業本部の谷本敦彦副統括部長は「ダイハツのお客様には、ご高齢の方も多い事から、当社は福祉介護車両のフレンドシップシリーズを鋭意開発してきた。つまり我々は常に、単にクルマを作って、売るだけではなく、何歳になっても自由に移動ができ、快適に暮らせる社会の実現を目指してきた。

 

そうした中、お客様に於ける〝コトづくり〟の一環として、我々の製品をお使い頂いている福祉介護事業者様の業務もサポートしたいという思いが募り、2018年からは、通所介護施設のご高齢者送迎をサポートする〝らくぴた送迎〟を始動させた。これは既に全国200ヵ所の介護施設でご活用頂いている。

 

 

人材不足と移動課題を一体で解決出来るサービスプラットフォーム

 

そんな折り、このようなサービスの現場で、お手伝いの深度を深めて行くと、個別の事業者様だけの努力では解決出来ない〝人手不足問題〟に突き当たった。特に地方の人手不足は本当に深刻で、例えばデイサービスでは、1日の勤務のうちで約3割が送迎業務に費やされてしまう。

 

これを踏まえダイハツが、人の力を束ねるお手伝いを行うべく、地域の様々な移動を支えられる介護送迎プラットフォームが作れるのではないかという思い至った」と述べた。

 

対して〝ゴイッショ〟の詳細について、新規事業戦略室で福祉介護MaaS分野・統括グループリーダーとして活動する岡本仁也氏は「福祉介護の移動問題に悩まれている自治体様へ対して、人材不足と移動課題を一体で解決出来るサービスプラットフォームとして私たちは〝ゴイッショ〟を提供したいと思っている。

 

例えば、ご高齢者のお出かけ手段が圧倒的に不足している地域であれば、買い物やお出かけの移動もサポートし、独居の方のご自宅にお食事をお届けする必要がある地域であるなら、弁当のお届けサービスなどもお手伝いしたい。〝ゴイッショ〟なら、そんな個々の地域ニーズに合ったサービスを組み合わせる事が出来る。

 

これらにより全国規模で質の高い介護サービスが実現出来るだけでなく、住み慣れた地域社会に於いて自由に移動できる環境を作る事にも寄与。それぞれの対象地域での暮らしがより快適になっていく。これが私たちの実現したい目標だ」と話す。

 

 

既に送迎車両の総台数を2割削減するなど事業効率化の効果が

 

実際にダイハツでは、香川県三豊市(域内の事業施設40、通所介護サービスの利用者800人規模)に於いて2020年11月から本格的な〝ゴイッショ〟の実証事業(対象5施設)を始動させ、既に送迎車両の総台数を2割削減し、介護現場の労働負担を着実に削減するなど事業効率化の効果が生まれている。

 

既に複数回に亘って行われてきた自治体向けの説明会についても、最直近では、来たる5月26日の実施を予定している(詳細は後述)。加えて今後に向けては、既に幾つかの自治体とサービス構築に向けた検討に入っているという。

 

但し、個々の介護施設毎に〝人手不足〟を筆頭に〝送迎に由来する課題〟は地域の特性毎に様々であり、各自治体に於ける人的リソースなど、自治体として解消したい問題も多種多様だ。

 

同社では、個々地域毎に介護施設送迎の困り事調査に始まり、まずは精緻な効果シミュレーションを行う事で共同送迎サービスの成立性を検証。

続いて本格サービスの実施に向けた企画提案を行った上で推進の可否を検討。更に参画団体や事業者との調整・交渉。実運用に当たっては検証・報告迄を一気通貫にサポートするなどで、既に高齢者の移動課題の解決に関わる複雑な支援を重ねて来ている。

 

ダイハツとしては、個々事例毎に真摯な姿勢で対峙していくと述べているゆえに、相応の時間が消費されると見られる着手初年度から、実際の運用に至る迄の道程は、想像以上の時間と手間が掛かるだろう。

 

 

〝ゴイッショ〟の事業では車両販売を第一義の目的としていない

 

それでも同社がこの事業を推進する理由は、先の通り、通所介護を担う単独の事業者を個々にサポートして行くだけでは「おのずと人員のリーソスが限られるから、該当施設が悩む人手不足を到底解消出来ない」、そんな数多くの事例に行き当たった事。

 

更に小型車を主力とする自動車メーカーとして「大型車を使った送迎利用では、利用者の自宅前の狭い道に入り込めない」、「一筆書きの一括送迎では時間が掛かり過ぎる」など、小さなクルマゆえの送迎上の優位点があるからだ。

 

けれども実際の〝ゴイッショ〟の運用では、使われるクルマは必ずしもダイハツ車だけではない。各事業者が保有するアセット(車両も含む)の範囲内で業務改善が行われる事が珍しくないようだ。つまりダイハツにとって、この〝ゴイッショ〟の事業では車両販売を第一義の目的としていないのである。

 

そもそも今日の日本で、1日のうち僅かな時間しか稼働しない自動車を個々の地域事情を問わず、押し並べて社会生活に於ける移動手段の中心に据える事自体、そこに〝真の合理性があるか、否か〟という疑問がつきまとう。

 

とりわけ地域の通所介護施設に於いて最も求められている人材は、施設内で高齢者を手厚く介護するためのリソースであり、それとは若干異質な勤務とも言える「運転能力の長けた送迎ドライバーを確保する」事自体が、特定地域に於いて極めて困難なケースも多々あるだろう。

 

そうした意味で、同社が手掛ける広義の日本型MaaS事業と言える〝ゴイッショ〟には、既存の国内自動車メーカーがまだ見ぬクルマに関わる新たなビジネスの可能性が垣間見える。

 

日本国内に於いて対象となる地方自治体は、市町村数で実に1718市町村(市792・町743・村183)に上る。ダイハツがこの〝ゴイッショ〟で描く夢の大きさは、実際のところ途方もにない規模なのだ。同社の利用者側の目線からの自動車社会最適化への試み。移動の格差を解消していく取り組みには、日本の自動車社会再創生の突破口になり得るのかも知れない。

 

5月26日のオンライン説明会の概要は以下URLの通り
https://www.daihatsu.co.jp/goissho/online/index.htm

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。