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2020年7月15日【テクノロジー】

鹿島ら、トンネル覆工コンクリート打設の完全自動化に成功

NEXT MOBILITY編集部

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鹿島は、岐阜工業およびシンテックと共同で、革新的な打設配管システムを開発し、トンネルの覆工コンクリート打設を完全に自動化することに成功した。

 

システムでは、コンクリートポンプ車の圧送信号と配管の切替えをリンクさせ、打上げ高さを自動で調整しながら、左右均等に全断面をコンクリート吹上げ打設。アジテータ車の入替え時以外の人手が不要で、安定したコンクリート品質を確保しつつも、従来工法と同等のコストを実現したと云う。

鹿島・ロゴ

■開発の背景

 

鹿島では、熟練技能労働者の減少や若手の入職者不足など、建設業が抱える様々な課題の解決策の一つとして、安全性と生産性を高め、品質も確保できる自動化技術の開発を進めている。

 

中でも、山岳トンネル工事における覆工コンクリート打設については、狭隘な作業空間でのコンクリートの打込みやバイブレータを用いた人力による締固めなど、技能労働者の経験と技量に頼る作業が多く、また作業環境も厳しいことから、完全自動化によるメリットが大きいとして、開発を進めてきた。

 

 

■完全自動打設システムの構成と特長

 

システムは、①締固めが不要なトンネル覆工用高流動コンクリートの使用、②残コン(打設時に配管内に残るコンクリート)の減量と回収が容易な新しい打設配管システム、③左右の高速切替が可能な配管切替装置、④ポンプ車と連動し左右の打上げ高さを自動制御する打設制御システム、の4つで構成される。

 

①トンネル覆工用高流動コンクリート

 

鹿島では、2011年に「増粘成分一液型の高性能AE減水剤を用いた覆工用中流動コンクリート」、2017年に「締固め作業が不要な自己充填性を有する覆工用高流動コンクリート」を開発し、現場で適用。今回、増粘成分一液型の高性能AE減水剤を改良し、これを用いることで、高流動コンクリートにおいても中流動コンクリートと同等の単位セメント量(350kg/m3)で締固めを不要にした。

 

②新たな打設配管システム

 

高流動コンクリートは粘性が高く、自由落下させると空気が混入し、打設後の覆工表面の気泡跡を増長する欠点があり、その克服には、全ての打設口を吹き上げて圧入する方式(吹上方式)に変更する必要が。一方、従来の吹上打設配管システムでは、打設口毎に配管が必要で、切替えの際に残コンが多量に発生するため、打設作業中の残コンの回収と配管清掃などの作業の発生、残コンの廃棄処分による環境負荷とコスト増が課題となっていた。

 

これら解決のため、鹿島では、各打設口を一筆書きで接続する打設配管システムを開発。打設時に回転式吹上打設口を型枠表面からコンクリート内部へ突出させ、完了時には回転させて蓋を型枠表面と同じ位置で閉めると共に次の打設口への配管ルートを形成、これにより打設中の残コンの回収や配管清掃を不要とした。

 

さらに、ポンプ車でポンプを逆転・正転させる(例えば右側の配管内の残コンを回収し左側の配管へ送る)ことで、残コンを減らすこともできると云う。

 

打設配管システムの概要

打設配管システムの概要

 

 

③高速配管切替装置

 

締固めを行わないコンクリートは原則として連続打設が必要なため、打設口の切替えも含めて左右系統の切替えに数十分を要する従来の配管システムでは、脱型後のコンクリート表面に流動停止の跡が顕著に残るという欠点があった。

 

しかし、配管の分岐点に高速配管切替装置を設置した同システムでは、左右系統の切替えに3秒、打設口の切替えも含めて15秒と、流動停止時間を短時間に抑えられる。

 

④打設制御システム

 

コンクリートの打上げ高さが確認できるセンサーを、型枠表面に設置して打設状況を見える化するとともに、ポンプ車と連動させて配管系統を自動で切り替え、左右の高低差を無くし均等に吹上打設を行う制御システムを開発。

 

事前に決定した打設口の切替高さや左右の切替えを行うポンプ車のストローク回数など、詳細な打設計画をシステムに入力し、スタートボタンを押すだけで、自動で全断面が計画通りに打設できる。

 

またシステムには、打設履歴が記録されるため、脱型後の仕上がりと打設計画との因果関係の分析も場所を特定して詳細にできるなど、改善活動もより明確にできると云う。

 

 

打設制御システムの概要

打設制御システムの概要

 

 

■試験打設結果

 

同システムを用いた打設試験を「模擬トンネル」で2020年2月~3月に2回行い、完全自動で計画通りに進んだことから、システムの有効性を確認。現在、表面の仕上がりと入力パラメータの因果関係の詳細分析を行っており、今後その結果を踏まえ、美観も含めた自動打設方法の最適化を図っていく。

 

 

脱型後の仕上がり状況

脱型後の仕上がり状況

 

 

■今後の展開

 

鹿島は、今回の模擬トンネルでの試験打設において完全自動打設を成功させ、良好な結果が得られたことから、制御システムの信頼性の向上と現場適用時に向けた耐久性の向上を図り、2021年度の実現場への導入を目指す。また今後、TAF工法も自動化することで、セントルのセットから打設、養生に至るすべての工程を自動で行う統合システムの構築を目指す。

 

 

■(鹿島)トリプルアーチフォーム(TrAF)工法、唐丹第3トンネルに初適用!(2017年8月3日リリース):https://www.kajima.co.jp/news/press/201708/3c1-j.htm

■(鹿島)トンネル覆工用高流動コンクリートを唐丹第3トンネルに初適用(2017年10月2日リリース):https://www.kajima.co.jp/news/press/201710/2c1-j.htm

■(鹿島)動画でみる鹿島の土木技術「山岳トンネル」:https://www.kajima.co.jp/tech/c_movies/index.html#anc_mountain_tunnel

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。