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2023年4月24日【特集】

志賀俊之 元日産COOに訊く、「ルノー・日産」新提携の行方

佃 義夫

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経営オペレーションが複雑化する中で明快な選択と集中も

 

――豊田章男自工会会長による日本自動車連合を引っ張るリーダーシップが、脱炭素は「EV一辺倒でない」とのことから日本のEVは出遅れたとの見方もあります。

 

 

志賀 ▶ それは、現在の(豊田)章男さんが自工会会長という要職にある訳ですから、国内外の自動車産業を広く俯瞰しての事なのでしょう。ただ今は、そうした要因も含めていよいよ悩ましい時期に来ているのではないでしょうか。

 

かつて私が日産でCOOをやっていた頃は、経営上のオペレーションは明快でした。つまり、どうしたら成長出来るか、儲ける事が出来るかについて、本当にシンプルな答えや法則があったからです。

 

 

つまり「良いものをより安く提供する」という事です。9年間、日産のCOOとしてオペレーションを任されましたが、迷う事はなかった。

 

しかし、今の100年に一度の大変革期に於ける経営者は「全方位でやるのか、集中と選択でやるのか」。経営資源が限られる中で、どこに集中すれば良いのか、という事を見つけていかなければならないのですから悩みは多くなる。

 

そうした見方で世界を見渡すと、GMのメアリー・バーラCEOの戦略は明快です。「EVと自動運転に集中する」という指針ですから。

 

これは経営者が方向性を明確にして「集中と選択」を推し進めた好例と受け止めています。経営資源が限られる中での集中と選択に対して、世界各地域の対応も全方位戦略が必要になるでしょう。

 

だからこそ、例えば「全方位と言われてもどこに行くんですか」、との問いにOEMから裾野のサプライヤーへ対して、2030年には何々、2040年には何々、そして2050年には、内燃エンジン車は一切扱わないなどのマイルストーンを出してあげる事が必要だと思うのです。

 

 

<解説>

 世界の趨勢を見渡すと、ここ数年で各国政府による電気自動車( EV )への傾斜が鮮明になっている。

 

 温暖化防止の大義で先行する欧州だけでなく、EVを世界自動車覇権の柱に据える中国や、バイデン政権の米国もEV重視を明確に打ち出している( バイデン米政権は4月12日に自動車新環境規制の導入を発表、この新規制で2032年に新車販売の最大7割がEVとなる )。こうした情勢にあって日本車のEV市場への出遅れが予てから指摘されて来た。

 

 日本の電源構成では、EVの実質的なCO2排出量はさほど減らない、電池の高コストに充電設備の未整備に航続距離など、消費者サイドが本当にEVを選ぶにあたって課題も多い。

 

日本車をリードするトヨタが脱炭素へ全方位( ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、バッテリーEV、水素、CN燃料 )戦略を掲げる中で「EVも本気」と宣言したのは豊田章男前社長( 会長 )だった。

 

その後4月に就任した佐藤恒治社長は、7日のトヨタ新体制方針説明会で「マルチパスウェイ( 全方位 )の軸をぶらさずに、BEVの開発、投入に積極的に取り組んでいく」と、EVへの本格転換を打ち出した。

 

また「これまでBEVに対する具体的なファクトを十分に示せていなかったかなと反省しています」と、トヨタのEV出遅れを指摘する声に答えるような発言も示した。

 

 いずれにしても、志賀氏の「日本車のEV出遅れは日本自動車産業の構造転換の遅れとなり、世界から取り残される事になる」という主張と懸念に対し、トヨタもこのEV本格化で産業構造転換を促す方向が進む事になった。

 

日本で軽EVの日産サクラ・三菱eKクロスEVがヒットして2022年は「日本のEV元年」と言われたものの、日本の新車販売に占めるEVは2パーセントに留まった。

 

世界販売ではEV比率は1割に達し、中国は約2割、欧州は1割、米国は5パーセントで日本車のEVシフトの遅れが逆に鮮明となった。

 

 カーボンニュートラル( CN )時代へ、世界のEVシフトの進展スピードは加速してモビリティの在り方までビジネスモデルの変革をリードしていくのか、注視していくべきだろう。

 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。