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2020年7月6日【テクノロジー】

NEDOとシャープ、世界最高水準のEV用太陽電池パネルを製作

NEXT MOBILITY編集部

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新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とシャープは、NEDO事業で開発した世界最高水準の高効率な太陽電池モジュール(変換効率31.17%)同等のセルを活用し、電気自動車(EV)用の太陽電池パネルを製作した。

 

パネルは、1kWを超える定格発電電力を達成し、走行距離や走行時刻などの利用パターン次第では、年間の外部電源からの充電回数をゼロにできることが試算されていると云う。

 

両者は今後、航続距離や充電回数などを評価し、車載用太陽電池の普及活動に生かすとともに、太陽電池の新規市場創出とエネルギー・環境問題解決を目指す。

NEDOは、2016年4月に産学の有識者からなる「太陽光発電システム搭載自動車検討委員会(※1)」を設置し、運輸分野のエネルギー・環境問題の解決を目的として、太陽光発電システム搭載自動車に関する調査・検討を行った。

 

シャープや日産自動車らが参加した同委員会では、中間報告書(2018年1月公表)の中で「変換効率30%以上の太陽電池パネルを使用すれば、自動車のような限られた設置面積においても、1kWの発電電力を実現することが可能である」、「ユーザーの利用パターン次第では、年間の充電回数をゼロにすることが可能である」と試算(※2)している。

 

またNEDOは、2014年9月に策定した「太陽光発電開発戦略」の中で発電コスト低減目標達成のため、革新的で高性能な太陽電池の開発を推進する事業(※3)を行い、その一環としてシャープはⅢ-Ⅴ化合物3接合型太陽電池(※4)の技術により、世界最高水準(※5)となる高効率太陽電池モジュール(※6)(変換効率31.17%/※7)を開発。

 

そして今回、シャープは、移動体への太陽電池搭載の可能性を検証するため、日産の協力の下、上記Ⅲ-Ⅴ化合物高効率太陽電池モジュール(変換効率31.17%)と同等のセルを活用し、EV用太陽電池パネルを製作(図1)した。

 

 

図1 複数の太陽電池セルにより構成された太陽電池パネル(左からルーフ、フード、バックドア)

図1 複数の太陽電池セルにより構成された太陽電池パネル(左からルーフ、フード、バックドア)

 

 

このセルは約0.03mmの薄いフィルム状になっていて、車体の曲面形状に沿って効率よく搭載できることから、1kWを超える約1,150W(※8)の定格発電電力を実現(表)。パネルは、公道走行用実証車(以下、実証EV)として、日産のEV「e-NV200」に搭載されている(図2)。

 

 

図2 1kW超の太陽電池パネルを搭載した電気自動車「e-NV200」

図2 1kW超の太陽電池パネルを搭載した電気自動車「e-NV200」

 

 

今後NEDOは、この実証EVの実証結果のほか、昨年7月からトヨタ自動車が実施する、シャープ製の太陽電池パネルを搭載したプラグインハイブリッド実証車(以下、実証PHV/※9)による公道走行実証のデータと併せて、IEA PVPS task17(※10)などの国際的な調査活動に生かし、さらに新規事業として、車載用Ⅲ-Ⅴ化合物太陽電池の実用化に向け、さらなる高効率化とコストダウンを推進し、太陽電池の新規市場創出とエネルギー・環境問題解決を目指すとしている。

 

 

【表】実証EVの概要

 

 

※1)太陽光発電システム搭載自動車検討委員会:太陽光発電システムの「新たな市場創出」と「エネルギー・環境問題解決へのさらなる貢献」を目的として、自動車搭載用太陽光発電システムについて調査・検討するため、2016年4月にNEDOが設置。

※2)試算:自動車への太陽光発電システム搭載時における〔1〕CO2排出削減効果、〔2〕ユーザーの利便性(充電回数)、〔3〕太陽光発電システム搭載自動車が普及した際の社会全体のCO2排出削減効果について検討し、その結果を中間報告書として2018年1月に公表<https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100909.html>。

※3)革新的で高性能な太陽電池の開発を推進する事業:[事業名]高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/超高効率・低コストIII-V化合物太陽電池モジュールの研究開発。[事業期間]2015年度~2019年度

※4)Ⅲ-Ⅴ化合物3接合型太陽電池:インジウムガリウムリン(InGaP)、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)などの化合物を接合。

※5)世界最高水準:2020年7月6日現在。シャープ調べ。

※6)高効率太陽電池モジュール:上記※3のNEDO事業にて開発を実施。7円/kWhを実現する発電事業用途を想定しているが、本件においては、高い変換効率に着目し、EVでの可能性を検討する。[参考]太陽電池モジュールで世界最高変換効率31.17%を達成(2016年5月19日ニュースリリース):https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100571.html

※7)変換効率31.17%:2016年2月、産業技術総合研究所(世界の太陽電池の公的測定機関の一つ)により、確認された数値[モジュール面積:968cm2(約31cm×約31cm)]。

※8 約1,150W
セル出力値(シャープ測定)と今回製作したパネル面積から算出したパネル出力の合計です。

※9)実証PHV:トヨタのプラグインハイブリッド車「プリウスPHV」に、シャープの高効率な太陽電池セルをモジュール化して搭載した乗用車。2019年7月から、愛知県豊田市や東京都などで公道走行実証が実施された。[参考]世界最高水準の高効率太陽電池を搭載した電動車の公道走行実証を開始(2019年7月4日ニュースリリース):https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101150.html

※10)IEA PVPS task17:国際研究協力プログラム「IEA PVPS」の研究テーマのひとつ。太陽光発電システムを搭載した移動体の省エネ効果や要求される仕様について、国際的に調査を行う日本主導の活動。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。