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2024年2月22日【事業資源】

日台アライアンスのリーンモビリティ、都市型EV開発が佳境に

坂上 賢治

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愛知県豊田市に拠点を構えるLean Mobility社(リーン・モビリティ)は2月22日、同社の谷中壯弘(やなか・あきひろ)CEOの下、台湾の自動車関連企業連合からの総額28億円の出資を受け入れて、自社開発車両Lean3(都市型小型EV)の量産準備体制が最終段階に入ることを発表した。

 

このリーン・モビリティは、トヨタ自動車に在籍していた谷中壯弘氏が創業したモビリティベンチャー。その谷中氏は、1993年に東京大学工学部を卒業してトヨタ自動車に入社。

 

TOYOTA i-ROADC+podC+walkなどの新コンセプト⾞両の企画や都市交通システムのシャシー設計や⾛⾏制御システムなどに携わる。

 

それらのコンセプトカー開発や実証プロジェクトを推進する中で、小型モビリティがもつ社会的可能性を発見し、自らのライフワークとすることを決心。2022年にリーン・モビリティの立ち上げに至った。

 

今回、日台の国際アライアンス体制(愛知県が拠点Lean Mobility 社と、台湾に拠点を置くLean Mobility Inc.とのアライアンス)に28億円の資金調達を得たことについては、リーン・モビリティ自らが経験が豊富なスペシャリストを集結させることに成功したこと。パートナー企業との協力関係のなかで進めてきたプロダクト開発が順調に進捗してきたことへの期待と信頼が現れていると話している。

 

今回の28億円の資金調達は、革新的な都市型小型EVの開発と市場導入を加速するためのものとしており、出資に参加した企業は、台湾の自動車産業を代表する企業群(六和機械股份有限公司傘下の冠和投資、台裕橡膠工業有限公司の主要株主である鴻裕投資開発、東立物流股份有限公司など)が含まれており、今出資に限らず各企業との広範な協力により、Lean Mobility社は、その製品開発と量産体制。それを足場にした新たな市場展開を休むことなく強化していく構え。

 

 

一方、調達資金とは対を成すリーン・モビリティの技術蓄積については、谷中CEOをはじめとするグローバルなヴィークル製造エコシステムの特性を知り尽くしたメンバー、モビリティビジネスや各業界でのマーケティング・セールスに通暁したメンバー、都市型小型EVの実証実験を取り回してきた経験あるメンバーなど、各業界のスペシャリストが参画しており、こうした人材面の陣容の厚さも高く評価されている理由だと説明した。

 

現在、同社の都市型小型EVの開発は既に重要なマイルストーンに到達。目下、量産体制を想定しているモデル「Lean3」は、プロダクトのサイズが乗用車の約1/3。二人乗りが可能。

 

 

後部座席はISO規格準拠のチャイルドシートの設置に対応。雨風を防ぐキャビンと空調を備えたものを想定。今後はロードマップに沿って、詳細な開発計画を進め、2025年央の市場投入を目指している。

 

ちなみに、この「Lean3」の場合、操舵は前2輪。駆動は後1輪となるので、谷中氏のかつての習作となるi-ROADとは、ステアと駆動の関係は逆となった。車体サイズも、ほんの少し大きくなっているようだ。

 

 

また、この車体サイズに係る着眼点の源流には、現代の乗用車の使用効率の低さにある。この考え方は一貫しており変化はない。平均的な4人乗り乗用車が実際に使用される際、平均搭載人数はわずか1.3人と言われており、これは交通手段として、一般的な乗用車の物理的な冗長性(無駄)を示している。

 

 

同社では、未来の効率的な都市交通を実現する上で、車の電化やシェアリングなどのサービス面のアプローチのみでは、この無駄が削減できないと考え、その解決策として、ハードウェアとしてのヴィークルのダウンサイズを目指した。

 

 

この「Lean3」は、新たにフロントステアに適応したアクティブ・リーン・システムを備え、Gジャイロセンサーによって常に車両姿勢を推定しつつ、コーナリング時には前輪の左右のサスペンションをダイナミックにコントロールさせて車体を最適な角度に傾斜させることで、安定かつ爽快な運転体験を実現する。

 

コンパクトで高機能なキャビンに、姿勢制御というロボティクス技術と自動車の走行技術を高度に融合させた新ジャンルモビリティは、都市部での移動効率を飛躍的に向上させることを目指しており、エコフレンドリーな移動手段として生活者に利便性と創造性をもたらすと謳っている。

 

市場規模に係る期待については、安心感と快適性の両面でバイクでは不足している部分。取り回しの点で自動車では満たせていない部分を勘案した都市型のモビリティの需要が潜在的には数百万台存在していると読んでいるようだ。

 

 

製造供給も含めた地域展開については、台湾市場でのローンチを皮切りに、日本や欧州市場への展開も視野に入れており、5年目までに5万台以上の生産を見込む。この際、量産車を構成する部品の大部分は、供給するサプライヤー候補が決定しており、サプライチェーン構築も既に最終段階にあるとした。

 

なおLean Mobility社は、車両や製造体制を革新するだけなく、顧客との関係構築に於いても革新を推進させる。

 

製品ローンチと共に、直接販売モデルを採用することで顧客との直接的な繋がりを実現。ユーザーとの絶え間ないコミュニケーションを通じて、顧客ニーズに基づいた付加価値を創出し続けることを目指している。また開発・製造パートナーとの関係構築に基づいたオープン・イノベーションを通じて、顧客体験を豊かにするサービス開発を進めていきたい考えだという。

 

 

リーンモビリティCEOの谷中壯弘氏は、「私たちのビジョンは、都市型移動の未来を再定義することです。

 

今回の資金調達とLean3が量産開発の最終段階に入ったことで、このビジョンの実現が大きく前進しました。ここからの展開に於いては、更に多くのパートナーと手を携えながら、このプロジェクトを推進していきます」と結んでいる。

 

 

参考情報: Lean3 サイズ・スペック情報
サイズ
・全長(mm):2470
・全幅 (mm):970
・全高 (mm):1570
・ホイールベース (mm):1800
・トレッド (mm):850
・最小回転半径 (m):3.6
乗車定員 (名)欧州カテゴリーL5:2(カテゴリーL5とは、中央の縦軸に対して対称な自動三輪車で、排気量が50 ccを超えるか、速度が45 km/hを超えるもの)
乗車定員 (名)カテゴリー原付ミニカー(日本):1

走行システム・性能
・駆動方式:後輪インホイールモータ
・電池:リン酸鉄リチウムイオン電池
・電池容量 (kwh):8.1
・充電時間 (h):AC100V:約7時間 / AC200V:約5時間 (開発中のため暫定値)
・一充電走行距離 ※WLTC class1 (km):100 (開発中のため暫定値)
・最高速度 (km/h) 台湾:80
・最高速度 (km/h) 日本:60

ユーティリティ:
・エアコン:設定
・チャイルドシート:装着可能(ISO-FIX F2X相当)

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。