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2022年9月30日【企業・経営】

VW、欧州で車載蓄電池用素材の合弁会社を設立

坂上 賢治

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左から順に。フォルクスワーゲンAG技術担当グループ取締役兼PowerCo SE監査役会会長トーマス シュマル氏。PowerCo最高調達責任者(CPO)イェルク タイヒマン氏。Umicoreエネルギー&サーフェイス テクノロジーズ担当副社長(EVP)ラルフ キースリング氏。Umicore最高経営責任者(CEO)マティアス ミードライヒ氏。

 

欧州地域で30億ユーロの資本を投下。VW製EVに係る欧州域内の素材内製化を整える

 

独・フォルクスワーゲン( VW )傘下で、車載蓄電池の開発と生産を担う「PowerCO( パワーコ )」と、ベルギーの循環素材大手「Umicore( ユミコア )」は、欧州地域全体で30億ユーロの資本を投下。VW製EVに係る欧州域内の素材内製化を整えるべく、合弁会社を設立する。( 坂上 賢治 )

 

ブリュッセルに本社拠点が置かれる新たな合弁会社は、2025年以降に〝パワーコ〟が運営するバッテリーセル工場へ主要素材を供給する役割を担うために設けられる。

 

この一連の計画は、2020年代の終わり迄に、年間160GWh(ギカワット)のセル容量を達成するべく、カソード素材と正極材料となる複合化合物(前駆体)を生産・供給する事にある。

 

 

それは約220万台の電気自動車が必要とする年間の蓄電池生産量に見合う規模で、今後、世界規模でEV用蓄電池が奪い合いになると予想される中で、欧州連合がグリーンディール目標を達成させるために重要なマイルストーンとなる。

 

蓄電池の正極材料としての良質なカソード活物質は、BEVの開発・組立に欠かせない素材

 

特に蓄電池の正極材料としての良質なカソード活物質は、BEVの開発・組立に欠かせない素材のひとつであり、それは最も大事なバッテリー性能の善し悪しを大きく左右するだけでなく、バッテリー製造に係るコストの大半を占める要素でもある。

 

従って現行の内燃エンジン車から、滞りなく次世代車のEVへと移行させるために、避けては通れない目標となる。そもそもVWは目下、資源から生産までの( 内製 )垂直統合を進めているが、その理由は充分な稀少材を確保するのみならず、調達価格面に於いても、自らのエコシステムを安定させるのが狙いだ。

 

また蓄電池素材の調達量に関して、同合弁会社を利用する事でEV生産計画で必要とされるVWブランド車の正極材の半分以上を確保させたい意向だ。

 

そうした意味で、同計画の実現はEVの量産計画上でも重要だ。加えて前駆体とカソード素材の原材料調達と供給を主導する役割の〝ユミコア〟は、使用済みバッテリーのリサイクルを担う〝パワーコ〟と協力し、バッテリーリサイクルに於いてもコバルトやリチウムなどを取り出す事業が守備範囲に含まれる。

 

 

なおVWは既にスタートアップ企業で、ドイツのライン川上流でリチウム生産を担い、二酸化炭素( CO2 )排出が少ないリチウム生産技術で強みを持つ豪・バルカン・エナジー・リソーシズと2026年から5年間のリチウム調達で合意している。

 

カソード素材は車載蓄電池の戦略的リソースで、セル製造コストの約5割を占める

 

今回の合弁会社に係る調印式で、フォルクスワーゲンAG技術担当グループ取締役 兼 PowerCO SE監査役会会長のトーマス・シュマル氏は、「カソード素材は、車載蓄電池生産に不可欠な戦略的リソースであり、セル製造コストの約5割を占めています。

 

従って、タイムリーかつ長期的に良質かつ大規模にカソード素材を確保出来る事は、我々にとって競争上の優位点となります。私たちは、ここ欧州で車載蓄電池を生産して同地域での価値創造を実現させ、高い環境基準と社会性を備えた持続可能で透明性のあるサプライチェーンを構築しています」と述べた。

 

一方、ユミコア最高経営責任者( CEO )のマティアス・ミードライヒ氏は、「このパートナーシップは、弊社の製品品質とプロセス技術の専門知識が認められたという証であり、主要地域で持続可能な車載蓄電池素材のバリュー チェーンを確立するという当社の戦略が順調に進んでいる事を証明するものです。

 

私たちは、電動化への道を一貫してサポートし続けており、〝パワーコ〟と提携してフォルクスワーゲンの持続可能なe-モビリティへの進化を支援出来る事を大変嬉しく思っています」と語った。

 

なお合弁会社に於ける納入製品の本格生産は2025年に開始される見込みだ。生産された素材はまずドイツ北部にある〝パワーコ〟のザルツギッター工場に供給されてEV30万台に相当する20GWh分を供給。その年間生産能力が2026年には40GWhになる見込みだ。

 

更に両社は、市場の需要動向に基づき、2020年代迄に年間の生産能力を160GEhへ引き上げる。また工場の建設地については現在、検討段階に入ったばかりとしている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。