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2020年12月18日【テクノロジー】

デロイトトーマツ、5Gの各国消費浸透と日本の現在地を発表

NEXT MOBILITY編集部

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デロイト トーマツ グループは12月18日、デロイトのテクノロジー・メディア・テレコムインダストリーが全世界23ヶ国・地域、計37,450人、18歳から75歳を対象に実施した「Digital Consumer Trends 2020」をもとに、分析結果『5Gの各国消費者への浸透状況と日本の現在地』を発表した。

 

2019年以降、各国で5Gが順次リリースされ、日本でも2020年3月以降に通信事業者4社から5Gサービスがリリースされた。5Gをリリースした主要な国である日本、中国、オーストラリア、UK、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、イタリアを比較し、それぞれの国でどの程度消費者に浸透しているか、日本で5Gの乗り換えが進まない要因はなぜか、5Gをどう普及させていくのかを、「Digital Consumer Trends 2020」をもとに以下の観点から考察していく。

 

・各国の消費者の5Gへの期待と5Gへの乗り換え
・5Gに対する日本の消費者の認識の特徴。特に日本における5Gが普及するための課題と期待されるサービスは何がありうるか

 

【各国の消費者は5Gをどのように認識しているか】

 

既に5Gをリリースしている日本、中国、オーストラリア、UK、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、イタリアでの認識状況を比較すると、「5Gに移行するとモバイル接続はよくなるだろう」という設問に、中国は肯定層が87%、否定層が3%と圧倒的に肯定的な回答が多い。それ以外の各国では、肯定層が37-58%と半数程度に留まるものの、否定層についても各国のほとんどが10%台と相対的に低く、さらに日本については肯定層が50%、否定層が6%と肯定層が多い。

 

一方「5Gについてよく知らない」という設問に、5Gが先行している中国でも45%が同意し、それ以外の国でも6割前後は同意しており、具体的な利便性については認識が広がっていない。また、スマホやデジタルへの依存といった健康リスクへの同意は各国10-20%台であり、懸念が高くない状態である。各国の消費者の半分は5Gを「よく知らない」ものの、上記のように「モバイル環境が良くなる」と肯定的に見ている。

 

【各国の5Gへの乗り換え意欲】

 

・5Gの契約者数が2020年8月時点で既に1億人を超えている中国では、5Gを「既に利用している」と回答した人が10%、「私の地域で利用可能になり次第、5Gネットワークに乗り換えるだろう」と回答した人が26%で、両回答を合わせた積極利用層が36%と最も多かった。

 

・次に「既に5Gを利用している」の回答が多かったのはフィンランドの7%で、日本よりも5Gリリースが遅いスウェーデン(2020年5月商用リリース)も6%と、5Gを牽引する主要通信器ベンダーの国では消費者の乗り換えが日本(1%未満)より進んでいる。

 

・各国の積極利用層(「既に利用している」と「私の地域で利用可能になり次第、5Gネットワークに乗り換えるだろう」を合わせた回答)を見ると、イタリア28%、フィンランド21%、オーストラリア21%、ドイツ19%、スウェーデン18%、UK15%に対し、日本は5%とかなり低い。昨年度の調査結果と比較しても、積極利用層はイタリア、フィンランド、オーストラリアで7-13%増加し、UK、スウェーデンでも4-5%微増しているが、日本は微減の傾向で、5G肯定層が他各国よりも多いにもかかわらず消費者の乗り換えの波は他国よりも遅い。

他国と比べ、日本で5Gが進まない要因としては以下の5点があげられる。
(1) 既存の通信ネットワーク品質に満足している
(2) デジタルデバイスのアーリーアダプターが少ない
(3) エリアカバレッジがまだ十分ではない
(4) キラーコンテンツがまだ見えないため端末・通信料金の価格アップは割高に感じる
(5) 所有率が高いiPhoneだが、5G端末の発売は2020年10月末から

 

特に、各国のデジタルデバイスの所有/利用状況を比較すると、スマートウォッチ、電子書籍リーダー、フィットネスバンド、VRヘッドセット、スマートスピーカー、その他スマート家電等、すべての項目で日本の消費者が所有している/利用できると回答した割合は各国比較で最も低い。日本は、5Gサービスにも関心を持つ可能性が高い新しいデジタルデバイスを積極的に試すアーリーアダプターが少ないと言える。

また、日本の消費者は従来からiPhone所有率が高く、2020年10月末の5G対応のiPhone12の発売により、今後5Gの普及が進むと考えられる。ただし本調査ではiPhoneのシェアが昨年から増加しており、調査実施時期(2020年7-8月)に照らすと、2020年4月に発売された4Gの普及価格帯モデルであるiPhone SEの購入によるものと考えられる。5G対応のiPhone12が発売される以前の半年以内に購入しているため、5G端末への切り替えが次の買い替えサイクルに先送りする層も一定数いるかもしれない。

 

【デロイト トーマツ コンサルティング執行役員 真鍋 裕之の見解】

 

日本は他国に比べて5Gの普及が進んでいない。事実ではあるが、現行方式でのエリアカバレッジと利用率の向上は目的ではなく、あくまで前哨戦であり、各国の一種のマーケティング戦略の表れと位置付けられる。今後、5G本来の価値の発揮に繋がるSA*1やミリ波*2、オープン化/仮想化、6Gも視野に環境が変化する中で、実質的な価値に焦点を当てた競争が各国間で本格化していく。

 

*1 SA(スダンドアローン):基地局だけでなく、コアネットワークも5G仕様の構成にしたもの。NSAが既存の4Gコアネットワークで構成されているのに対し、SAでは5Gの特性をフルに生かすことができる。
*2 ミリ波:日本では5Gに6GHz未満の(Sub-6)と28GHz(高周波、ミリ波帯)の二つの帯域が用意されている。ミリ波は波長が短いため直進性が強く遠くに伝わりにくいが、帯域が広く確保できるため高速大容量通信が可能となる。

 

通信会社など供給サイドにとって競争の土俵は、5G通信ではなく5G時代における情報伝送/処理の全体であり、サービスからデバイスまで幅広いレイヤにおいて海外企業との陣取り合戦が進行している。その土台として、情報の取扱いに関する、日本としての守りとグローバル視点の攻めの両面からのルール作りが急がれる。

 

一方、生活者や社会の視点では、COVID-19の影響で、リアルとバーチャルの価値変化が進んでおり、5Gの主用途の一つであるXR領域にとって追い風と言える。同時に、国民全体のDXが急務とされる中、社会インフラという観点からのXRの実装の在り方も注視していきたい。

 

 

【「Digital Consumer Trends 2020」調査概要】
調査は昨年まで「モバイル利用動向調査」として実施していたものを、よりデジタルにおける消費行動に着目して刷新したもの。「デバイス所有状況」、「スマートフォン利用動向」、「5Gと通信環境」、「COVID-19の消費行動への影響」、「在宅勤務」、「キャリア/店舗」、「ゲーム/サブスクリプション」といったテーマについて下記の概要の通り調査している。

 

– 調査形式 :オンラインアンケート(PC、スマートフォン等)
  デロイトが設計した調査項目をもとに外部調査会社にて実施
– 実施対象国:23ヶ国・地域(データの公開を行っていない国が一部ある)
– 全調査人数:37,450人
– 調査期間 :2020年4月から2020年8月と国により異なる。
  日本では緊急事態宣言解除後の7/28~8/17に調査実施

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。