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2021年8月10日【エネルギー】

横浜ゴムら、バイオマス由来のブタジエンゴムでタイヤ試作

NEXT MOBILITY編集部

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横浜ゴムは8月10日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)との共同研究により、バイオエタノール(※1)からブタジエンを大量合成し、従来と同等の性能を持つ自動車用タイヤの試作および一連のプロセスの実証に、今年6月に成功したと発表した。

 

ブタジエンは現在、タイヤの主原料である合成ゴムなどの重要な化学原料として石油から生産されているが、バイオマス(生物資源)から生成したブタジエンからのタイヤ生産技術の確立により、石油への依存度を低減することで、CO2削減と持続可能な原料調達が促進されると云う。

 

横浜ゴム、産総研、ADMATは、NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」の委託事業として、超超PJが推進する「計算科学技術」「プロセス技術」「先端計測技術」の三位一体での開発により、バイオエタノールからブタジエンを高速かつ効率的に合成する技術開発に取り組んでいる。

 

プロジェクトでは、2019年、触媒の配合状態や反応条件に関する大量のデータを取得・解析するハイスループットシステム(※2)とデータ駆動型学習(※3)、触媒インフォマティクス(※4)の活用により、当時では世界最高のブタジエンの収率(※5)を持つ触媒システムを開発し、さらに生成したブタジエンからブタジエンゴムの合成に成功。またこの知見を生かし、2020年にはより最適な触媒を検討し、2019年と比べて1.5倍のブタジエン収率を持つ世界最高の触媒システムの開発に成功した。

 

 

 

 

今回の成果は、これをさらに進化させたもので、2020年に開発した高性能触媒システムを用いて反応システムのスケールアップを行い、ブタジエンの大量生産とそれを原料にしたタイヤ製作までの一連のプロセスを実証した。

 

この研究では、バイオエタノール処理量を約500倍にした大型触媒反応装置を設計・製作してバイオエタノールからのブタジエン大量合成を検討。反応条件の最適化や生成したブタジエンの捕集方法の改良により、約20kgのブタジエン製造に成功、このブタジエンを蒸留精製により高純度化した後、重合反応によって得られたブタジエンゴムを原料にして自動車用タイヤの試作に成功した。

 

なお、大型触媒反応装置の設計・製作およびブタジエンの大量合成は産総研が、生成ブタジエンの蒸留による高純度化はADMATが行い、横浜ゴムは高純度ブタジエンの重合によるゴム化およびそれを原料にしたタイヤ試作を担当した。

 

バイオマス由来のブタジエンゴムで試作された「BluEarth-GT AE51」。

バイオマス由来のブタジエンゴムで試作された「BluEarth-GT AE51」。

 

 

試作タイヤは、グランドツーリングタイヤ「BluEarth-GT AE51」の185/60R15サイズ。従来、このタイヤのキャップトレッドとサイドウォールは、石油由来のゴムから製作されるが、試作では、全てバイオエタノール由来のブタジエンゴムと天然ゴムに変更し、持続可能なゴム材料のみで構成。石油由来のゴムを使用した時と同等の材料性能を有していると云う。

 

安全性に重要な役割を担うタイヤの中で、路面と接触するキャップトレッドは、路面からの衝撃や外傷からタイヤ内部を守るだけでなく、グリップや摩耗の抑制といったタイヤの性能にも大きく寄与する部分であり、またサイドウォールは走行時に最も変形が大きな部分。ブタジエンゴムは、柔軟で変形に追随しやすいという特性からサイドウォールに使用され、またキャップトレッドにおいては、摩耗抑制に貢献している。

 

横浜ゴムは、2021年度から2023年度までの中期経営計画「Yokohama Transformation 2023(YX2023)(ヨコハマ・トランスフォーメーション・ニーゼロニーサン)」のESG経営において「未来への思いやり」をスローガンに掲げ、事業活動を通じた社会課題への貢献を推進。今後も、地球環境保護のためのカーボンニュートラルの一環として、持続可能な原料調達に向けた技術開発に取り組んでいくとしている。

 

 

※1:バイオマスから製造されるエタノールで現在はサトウキビ、トウモロコシあるいは廃木材から製造。再生可能でカーボンニュートラルな燃料や化学原料として注目されている。
※2:高度に自動化された方法で短期間に多数の触媒の調製ならびに評価を行い、触媒の開発に必要なデータを迅速に得るシステム。
※3:ハイスループット実験や計算科学により、目的に応じて創出されるオンデマンドデータを用いた機械学習。
※4:産総研が提唱している触媒化学と情報科学を融合させた学際領域を指す用語。近年、さまざまな分野と情報科学の融合研究が推進されている。
※5:バイオエタノールから理論上得られる最大ブタジエン量に対する実際に得られたブタジエンの割合。

 

 

■新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):https://www.nedo.go.jp/index.html
■産業技術総合研究所(産総研):https://www.aist.go.jp/
■先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT):https://www.admat.or.jp/

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。