NEXT MOBILITY

MENU

2019年9月5日【テクノロジー】

OKI、製造現場の最適化で量子コンピューターを適用

NEXT MOBILITY編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 

沖電気工業(OKI)と、OKIグループのプリンター事業会社である沖データ(OKIデータ)は、OKIデータのLED統括工場において、D-Wave社の提供する量子コンピューター(注1)を活用して製造ラインにおける半導体製造装置の最適配置を算出。作業員の移動距離を平均28%短縮する結果を得ることに成功した。

沖電気・ロゴ

量子コンピューターは、従来のコンピューターに比べ圧倒的な計算能力を持つと期待され、世界中で開発が活発に行われている。この量子コンピューターを含む量子技術は、日本でも重要な基盤技術として位置づけられており、国をあげて研究開発を推進している。

 

このような中、2014年、カナダのD-Wave社は、量子アニーラ(注2)と呼ばれる組み合わせ最適化問題に特化した量子コンピューターの商用リモートアクセスサービスを、世界に先駆けて開始。

 

OKIは、量子コンピューター技術の有用性が幅広く認知され、当たり前のように社会実装される日が遠からず到来すると予想し、その応用技術の研究開発を行ってきたが、今回、確立した実用的な問題を解くための基礎的な計算技術を社内事例に適用して検証すべく、OKIデータLED統括工場の装置最適配置を行った。

 

OKIデータのLED統括工場では、製造工程の異なる複数の製品を、数十~数百台におよぶ多種類の半導体製造装置を共用し、装置間を作業員が移動して製造していることから、生産性向上のためには、装置の配置を最適化し、作業員の移動距離(以下、動線)をできるだけ短くする必要がある。

 

しかし、装置の台数および種類が多くなると、その組み合わせのパターン数は爆発的に増加。今回検討したケースでは、10の100乗を優に超えると云う。

 

また、装置の設置場所や重複する装置の選択方法など、複雑な制約条件の考慮も必要なことから、スーパーコンピューターのような高性能な従来型コンピューターを用いても、そのすべてを計算して最適な装置配置を算出することは、現実的には不可能だった。

 

しかし今回、OKIとOKIデータは、D-Wave社の提供する量子アニーラを用いてこの最適配置の算出に挑戦。

 

このテーマへの量子アニーラの適用は、研究的な視点では、算出した最適配置の効果を定量的に観測しやすいという利点もあるが、問題を効率的に解くためには、量子アニーラと製造現場の両者の制約条件に適した新しいアルゴリズムが必要。

 

このため、製造現場の実態を知悉したLED統括工場のメンバーも参加し、製造工程および製造数の異なる製品2種を同一工場内で製造するときの条件をモデル化し、計算アルゴリズムを独自設計することに成功。この新しいアルゴリズムを用いて量子アニーラにより最適な装置配置を計算したところ、従来の装置配置と比較して、平均28%の動線短縮を実現するという結果が得られた。

 

なおこの結果は、量子アニーラを実際の工場の装置の最適配置に適用した先進的な事例になると云う。

 

OKIおよびOKIデータは、今回の結果をさらに精緻化したうえで、LED統括工場の生産性向上に適用する予定。

 

OKIは、今後も量子コンピューターの実用化に取り組み、労働力不足に対応した生産性向上などの社会課題の解決に貢献していくとしている。

 

 

注1)量子コンピューター:量子力学的な状態(0と1の重ね合わせ)を情報処理の単位(量子ビット)として利用するコンピューターの総称。汎用的な演算が可能なゲート型と、組み合わせ最適化問題に特化したアニーリング型に分類できる。

注2)量子アニーラ(アニーリング型量子コンピューター):量子ビットの重ね合わせと量子ビット間の結合を利用し、最適な組み合わせを導くことに特化したコンピューター。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。