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2019年4月22日【テクノロジー】

損保ジャパン、自動運転&MaaS(認知度27%)意識調査

NEXT MOBILITY編集部

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損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン日本興亜)は、目下開発が進められている「自動運転車」や、新たな移動サービスとして注目を集める「MaaS(※)」に関するアンケート調査を実施し、その結果を公表した。

損保ジャパン日本興亜・ロゴ

1.調査実施の背景

 

自動運転技術は、交通事故の削減、交通渋滞の緩和、高齢者や過疎地における移動手段の確保、物流業界の人材不足解消など、様々な社会的効果が期待されることから、研究・開発が進められている。

 

また、道路交通法をはじめとした関連法についても、2018年度発表された「自動運転に係る制度整備大綱」に基づき、実現に向けた整備が進められている。

 

損保ジャパン日本興亜では、消費者が持つ自動運転技術に関する認知や理解、自動運転車に対する期待や不安が日々変化し、また、自動走行の社会への浸透には、消費者の受容性の高まりが重要であると考え、2017年から自動運転車の社会受容性を定量的に計測する調査(※)を実施している。

 

また昨年度、未来投資会議のテーマに初めて取り上げられ、現在注目を集める、「MaaS」についても、その受容性の調査を実施した。

 

ちなみにMaaSとはMobility as a Serviceの略で、自動車や自転車、バス、電車などのあらゆる交通手段を一つのサービスとしてとらえ、それらを一元的な移動サービスへ統合することで利便性の向上や効率化を図る概念である。

 

※「自動運転車」に関する意識調査(2017年4月10日):https://www.sjnk.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2017/20170410_1.pdf

 

 

2.調査概要

 

(1)調査期間:2019年2月
(2)調査方法:インターネットアンケート調査
(3)調査対象:全国在住の10~70代男女一般生活者(ドライバー以外を含む)
(4)回答数 :3,360サンプル(下記14区分、各240名)

・性別:男性、女性(2区分)
・年代:10~70代(7区分)

 

 

(注)10代へのアンケートは今回から追加したため、2017年調査との比較分析は20代以上に絞って実施。

 

 

3.調査結果

 

(1)自動運転機能の利用意向と自動運転車の普及に対する期待

 

損保ジャパン日本興亜は、2017年の調査結果と比較し、「自動運転機能の利用意向」および「自動運転車の普及に対する期待」はそれぞれ高まっており、社会受容性は高まっていると分析。

 

その要因の一つとして、国内各地で実証実験が盛んに行われるようになり、自動運転に関するニュースや情報が増えたと感じている人の割合が8割以上に上っていることを挙げている。

 

 

※自動運転レベルに関する定義が前回調査後に変わったため、今回、完全自動運転車については2区分に分けて調査している。

 

 

 

 

(2)自動運転車の普及に対する不安

 

自動運転車の普及に対する不安については、「車両価格の高騰」や「車検、故障費用の高騰」など現実的な項目を回答する人の割合が増えた。

 

これに対して損保ジャパン日本興亜は、自動運転がこれまで以上に身近に感じられるようになった結果であり、実用化に向けて一歩近づいたと、とらえることもできると説明。

 

また、前回に引き続き多くの人が、「交通事故が生じた場合の責任の所在があいまいになること」を不安に感じていることが判明した。

 

自動運転システム利用中の事故における損害賠償責任の考え方については、国土交通省の「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」で、当面の「過渡期」においては、自賠法(自動車損害賠償保障法)の「運行供用者責任」の考え方が維持され、迅速な被害者救済等は引き続き行われていくものと整理されている(※1)。

 

同社自動車保険では、2017年7月から「被害者救済費用特約」を自動車保険に自動で付帯している(※2)が、契約者の不安解消につながる対応についても引き続き丁寧に情報発信していきたいとしている。

 

 

 

 

※1:2025年ごろまでの過渡期(自動運転車と自動運転車でない車が混在する時期)を想定したものとされている。詳細は「自動運転における損害賠償責任に関する研究会 報告書」(国交省)を参照<http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000048.html>。

 

※2:詳細は『【自動車保険】自動運転車に対応した新たな補償の提供開始』(2017年2月27日)を参照<http://www.sjnk.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2016/20170227_1.pdf>。

 

 

(3)公道実験の受容性

 

実験のために自動運転車を公道で走行させることについては、約半数が「好ましくない」、または、「行うべきではない」と回答。公道走行実験自体にネガティブな印象を持っている人が多いことが分かった。

 

一方、その内の76%が対策を講じていれば実験をしてもよいと回答。これらのことから、自動運転車の走行実験において安全性確保が重視されていることが判明した。

 

 

 

 

(4)損保ジャパン日本興亜の取組みに関する調査結果

 

損保ジャパン日本興亜では、昨年9月28日、従来の自動車保険の付帯サービス(レッカー手配等)に加え、無人の自動運転車の見守り(監視)や緊急時の遠隔操作といった新たなサービスの研究施設としてコネクテッドサポートセンターを開所。

 

また、2月15日には自動運転技術をもつ2社(※)と業務提携し、公道で走行実験を行う前にドライブシミュレーターを使うことによって、実験ルートの調査や安全性を低コストで迅速に検証できるサービスの開発を進めている。

 

これらの取組みが、自動運転車に乗る際の安心や実用化の後押しにつながるかを調査した結果、両取り組みとも7割以上の人が、安心・実用化につながると回答した。

 

※ティアフォー(自動運転システム開発等)、およびアイサンテクノロジー(高精度三次元地図の配信技術等)の2社。

 

 

 

 

(5)MaaSの認知度と利用意向

 

新たな統合型移動サービス(MaaS)について「聞いたことがある」と回答した人の割合は、全体の27%にとどまった。一方で、「聞いたことがない」と回答した人も含め、「利用してみたい」と回答した人の割合は半数を超えていることから、今後MaaSに対する認知度向上が必要だとしている。

 

 

 

 

(6)MaaSサービスを利用したい場面

 

利用したい場面について調査したところ、「旅行時の観光地周辺の移動手段としてサービスを利用したい」という回答が最多で全体の64%、次いで「日用品の買い物や通院などの日常の自宅からの移動手段として利用したい」が全体の35%という結果になった。

 

フリー形式の質問では、「小さな子どもを連れて外出がしやすくなる」ことを期待する回答も。また、60代~70代の回答者のうち約半数が「日常の移動に利用したい」と回答、新たな移動サービスによる高齢者の移動支援や行動範囲の拡大に大きな期待が寄せられていることが分かった。

 

 

 

 

4.調査結果に対する有識者のコメント

 

■国交省 自動車局 保障制度参事官室 企画調整官 佐藤典仁氏

 

今回の調査結果では、自動運転車の利用意向が2017年の調査と比較して高まっていることが判明する一方で、回答者の約半数が「交通事故が生じた際の責任の所在があいまいになる」ことを自動運転車の普及に対する不安として挙げており、2017年の調査と比較しても微増しています。

 

国土交通省自動車局は、2018年3月に「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の報告書を公表し、レベル0~4の自動車が混在する2020~2025年頃の「過渡期」においては、現在の自賠法の運行供用者責任の枠組みを維持し、自動車の保有者が、引き続き運行供用者責任を負うこととしています。

 

これにより、自動運転システム利用中に万が一事故が発生したとしても、事故の被害者は迅速な保険金の支払を受けることができ、迅速な被害者救済を実現することができます。

 

さらに、現在、政府が2018年4月に取りまとめた「自動運転に係る制度整備大綱」に沿って、2020年目途の高度な自動運転の実現に向けた制度整備が進められ、道路運送車両法および道路交通法の改正案が今国会で審議されているところです。

 

このように、制度整備は着々と進んでおりますが、他方で、自動運転車の普及に対する不安の声もあるところであり、自動運転車およびその法制度に対する理解を深めるとともに、不安を解消し、社会受容性を向上させていくことは、自動運転車を普及させる上で欠かすことはできません。

 

また、かかる社会受容性を考慮することは制度整備を進める上でも重要であり、今回実施された調査の意義は大きく、今後も定期的に実施されることを期待します。

 

 

■第一生命経済研究所 調査研究本部 ライフデザイン研究部 主席研究員 宮木由貴子氏

 

消費者の自動運転に対する社会受容性を醸成するためには、誰がどこでどのようなものを求めており、それに対して企業や行政はどのような製品・サービスを提供できるのかについて、消費者・企業・行政で対話をしつつ、社会全体でトライアルを重ねていくことが重要となります。

 

自動運転に関する情報提供と消費者の理解促進において、実証実験をはじめとした、自動運転の体験・接触機会を広げる取り組みは重要な意味を持ちます。事前対策を十分に行い、実験が安全かつ効果的に行われることに加え、社会実装における万が一の際の補償などについて、消費者に明確に伝えていくことが求められます。

 

2020年における高速道路での自動運転(レベル3)や限定地域における無人自動運転での移動サービス(レベル4)の実現に向け、今後、実証実験のさらなる増加が予想されます。消費者の実態把握に加え、自動運転の社会受容性を観測するためにも、定期的に消費者調査が実施されることを期待します。

 

 

5.今後について

 

損保ジャパン日本興亜は、2017年の調査との比較結果を受け、自動運転車に対する社会的な受容性は、自動運転車の研究・開発が進んでいる背景から、高まりつつあるとの結論を出している。

 

一方で、公道での走行実験等、実用化に向けた取組みについては、より一層の安全性の向上、安心感の醸成が求められていることから、保険商品の開発のみならず、提携会社と連携し開発を進める自動運転サービスの導入支援事業や、コネクテッドサポートセンターを基軸とした無人自動運転車に対する見守り(監視)サービスなど、今後も安心・安全な自動運転社会の実現に向けた取り組みを加速していくとしている。

 

また、今回新たに調査したMaaSについては、認知度がまだ低い一方、「旅行・観光時の新しい便利な移動手段」や「高齢者の移動支援・行動範囲の拡大」等に大きな期待が寄せられていることから、新たな移動サービスの登場やシェアリングビジネス等、移動手段や社会構造の変化に対応できる保険商品やサービスを研究・開発していくとしている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。