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2020年12月9日【イベント】

新型MIRAI、元町工場・混合品種組立ラインでの生産開始

坂上 賢治

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 トヨタ自動車(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田 章男)は12月9日、実態としては既に公表済みだった新型FCV(燃料電池自動車)「MIRAI(ミライ)」のフルモデルチェンジをようやく公式発表(6年振りの刷新となる)した。併せて同日の12月9日よりトヨタの車両販売店を通じて販売を開始すると発表した。(坂上 賢治)

 

 

いまさら言わずもがなのFCVは「Tank to Wheel(タンク・トゥ・ホイール/燃料を車両タンクに詰め込んで、それを使い切る迄)」という切り口では、ほぼ完全なゼロエミッション車である。かつ今のところ極めて特殊な水素充填施設を利用するという前提であるなら、分単位という化石燃料車と同じ短い充填時間で長い航続距離を実現している広義のEVだと言える。

 

 トヨタでは予てよりこのFCVを「究極のエコカー」と謳っており、世界に先駆けて2014年に量産体制を確立。以降、実用FCVとしては未だ世界規模でも孤高の存在であり続けている。

 

 

しかし実際の初代MIRAIの量産体制は、専用の製造チーム・MIRAI専用ラインを介した手作り車であった。それゆえ奇特な需要家がせっかくFCV購入に名乗りを挙げたとしても、現実問題としてMIRAIが自宅のガレージに収まるまで年単位の待機期間を求められるなど〝トヨタブランドの量産製品の体〟を成していなかった。

 

しかし今回トヨタは、車両刷新にあたって生産体制の刷新を試みている。今新型MIRAIは先代と同じ元町工場(愛知県豊田市)で生産を行うこと自体は同じではあるが、クラウンの生産ライン上で混合品種組立(他車との混合生産)を開始している。

 

 

実際には混合品種組立と言っても、さすがに水素タンクの搭載・組み付けは一般車両の生産を担う組立スタッフでは荷が重く、この部分のみ別ラインで組み付けた上で、支流からクラウンの生産ラインに流していくという形を取っている。

 

これを額面通り受け取れば筆者の勝手な私見であるが、いずれFCV生産は必ずしも特殊なクルマづくりではなくなり、MIRAIとは異なる一般車両名でのFCV誕生も考えられる。

 

 

 そもそも元町工場は、昭和34(1959)年に(当時)東洋一の乗用車生産工場として「トヨペット クラウン」の生産を開始。以降、当時の関東自動車工業より生産移管された「トヨペットコロナ」を皮切りに「パブリカ」「コロナマークⅡ」「ソアラ」「スープラ」「RAV4」とトヨタの屋台骨となったクルマを数多く輩出してきた。従っていずれ元町工場からクロスオーバータイプの新型クラウンが消費市場に送り出されても驚くに値しない。

 

 なお車両自体の仕上がりは、水素タンクを初搭載するため4名乗車となるなど妥協の産物であった初代とは異なり、トヨタを代表とするプレミアム車両としての資質を備えるに至っている。

 

 

車両骨格は「GA-L」プラットフォームを用い、小型化されたFCスタックの搭載位置はフード下としつつも、モーターと駆動用バッテリーはリヤに配置したFR構造とした。これにより前後50対50の重量配分も実現させている。ステアリング操舵の特性は軽やか、かつステディなもの。パワーユニットが絞り出す出力は大きく向上しているから、電動車ならではの胸の空く加速性能も充分愉しめる。

 

 

 走るための燃料となる水素搭載量は4.6kg→5.6kgと約2割拡大。一方でRC昇圧コンバータヘSiC半導体の採用や、リチウムイオン電池を2次電池に採用したことにより燃費も約1割アップ。結果、従来型比3割増となる約850km(Gグレード)の航続距離を実現させた(JEVS法計算の水素搭載量と、WLTCモード走行パターンによる燃料消費率を乗算)。

 

 

また同社の予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」も時代に合わせて着実にステップアップさせており、駐車作業ではカメラと超音波センサーを使いステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジ操作を車両が率先して支援しスムーズな駐車を実現する「Advanced Park/自動パーキング機能」の他、「交差点事故対応機能」「衝突回避操舵支援」など新しさ感もそれなりに堪能できる。

 

 

加えて2021年発売車から搭載するとしながらも、自動車専用道路で車線・車間維持、分岐、レーンチェンジ、追い越しなどを実現させる「Advanced Drive機能」も可能となっていく見込みだ。

 

 

 ちなみにMIRAIは、単なる燃料電池搭載車としてトヨタの旗艦モデルとしての役割を果たすだけではなく、同車のFCユニット単体を、トラック、バス、鉄道車両、船舶さらには航空機・宇宙開発用途にまで役立てて水素需要拡大の切り込み隊長としての役割も担わせている。今回でFCユニットは6年振りの刷新となったが、今後もこうしたシステムの刷新は定期的に行われていく予定だという。

 

小型化・高性能化されたFCユニット(写真右)

 

車両のグレードは標準のG、上級グレードのZのふたつ。これに個々グレードで「エグゼクティブパッケージ」や、GグレードにはToyota Teammate Advanced Parkなどを装備した「Aパッケージ」が用意されている。気になる価格帯 は 710万円~805万円(メーカー希望小売価格)。これに政府や自治体などからの補助金が加わるため、既存のミドルタイプの高級グレードに近い価格で入手することができるだろう。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。