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2023年2月13日【特集】

東京都に訊く、未来を見据えた〝100年プロジェクト〟

NEXT MOBILITY編集部

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未来都市・東京を目指す具体的ロードマップとは

 

――更なる未来を見据えた東京ベイeSGプロジェクトですが、今後は、どのようなステップを踏むのでしょうか。

 

山本 ▶ 最終的には、ゼロエミッションを完全実現させた上で、最先端技術がシッカリと実装された地域でなければなりません。
また単なる〝技術実証の場〟というだけに留まらず、最先端技術の着実な実装を目指して行きます。将来的には、世界中のスタートアップやESGに積極的に取り組む企業が集積する未来の街を想定しています。それゆえこうした街を支える未来の交通も必要になるでしょう。

 

 これらの構想は、先から申し上げている通り50年、100年先を見据えた非常に息の長いプロジェクトとなり、この実現に向けて3つのステップを設けて、未来の都市造りへの青写真を描いています。

 

――既に精緻なロードマップが描かれているのでしょうか。

 

山本 ▶ 全く新たな都市づくりを目指すのは確かですが、現段階では、50年・100年全体を精緻に包括出来るような絵は描き切れていません。

 

 一方で、都市機能が既に固まっている都市中枢地域とは異なり、対象とするエリアは現時点では多くの更地が広がっており、〝後発ゆえの優位性〟もあると思います。

 

 そこでまずは、我々自身が現段階で投入出来る最先端技術を現場に持ち込んで、都民の方々に様々な体験をして頂いた上で、未来へ向けた第1章のイメージをお示ししたいと考えています。従って今は、そのための準備段階としての先行プロジェクトがスタートしたばかりのフェーズと言えます。

 

――現段階では、どのようなプランが敷かれているのでしょうか。

 

山本 ▶ 令和4年11月に9件の実施プロジェクトが採択された事を発表したばかりです。
「先行プロジェクト」と名付けた実施事業には3つのジャンルがあり、「次世代モビリティ」「最先端再生可能エネルギー」それに「環境改善・資源循環」が加わるラインナップとなっています。

 

多彩な企業が未来を目指した実証に相次いで参画

 

――それぞれのジャンル毎に実施事業が決まった段階という事でしょうか。

 

山本 ▶ はい。その中でも次世代モビリティ分野で筆頭に挙げているのは、いわゆる〝空飛ぶクルマ〟の実証運用になります。
第1フェーズにあたる今回は、グループ単位でエントリーして頂いており、代表事業者はNTTコミュニケーションズ株式会社となっています。

 

 〝空飛ぶクルマ〟にあたる機体については、2011年に電動垂直離着陸機として世界で初めての有人飛行を行った独・航空機製造のスタートアップ企業ボロコプターの機体を飛ばす事を想定しています。

 

飛行は、1人または2人乗りでペイロード200キログラム規模の空飛ぶクルマや、同程度の重量輸送用ドローンを使って検証します。

 

 モビリティ分野で、もうひとつ採択したのが水空合体ドローンです。
これを選んだ背景は、プロジェクトのフィールドを活かして陸からドローンを飛ばして、1つの機体で空と海中の調査を同時に行う事も想定しています。

 

これにはKDDIグループ( KDDIスマートドローン株式会社 )が取り組まれます。都は、この実証環境のベイエリアを管理しており、我々としては海との関わりも大変重要だと考えています。

 

 これまで海だけのドローン、空だけのドローンはありましたが、両方を合体した水空合体ドローンでの実証は、我々が世界に先駆けて取り組んでいると思われます。

 

――他のジャンルでは、どのような取り組みがあるのでしょうか。

 

山本 ▶ 最先端の再生エネルギー分野で、洋上浮体式太陽光発電があります。これは水に浮かべた太陽光発電で、日本でもこれまでダムや、ため池に装置を浮かべて発電する実証が行われて来ました。

 

しかし、国内に於ける海上での実証は今回が初めてです。海では塩や波の影響がありますが、事前にヒアリングしたところ、各社共に、これまで実証するフィールドや機会が無かったようです。

 

 そこで、これを機に東京ベイエリアで検証する事になりました。この領域での取り組みには、三井住友建設株式会社と東急不動産株式会社のグループが採択されています。

 

 更に発電分野では、地面に埋め込む舗装式太陽光発電もあります。海外では既に実証例がありますが、日本国内では事例が少なく、東亜道路工業株式会社が採択されました。

 

 加えて風力発電分野では、垂直軸型の風力発電でスタートアップの株式会社チャレナジーと、三鷹光器株式会社が採択されています。

 

 実は風力発電分野の技術で、既存のプロペラ式の風力発電は、台風到来の際に負荷が高くなるため停止させなければならないのですが、垂直軸型の風力発電は、旧来のプロペラ式とは構造が異なるため、例えば台風が到来しても発電を止めずに連続稼働させる事が可能です。

 

 この他、水質改善の株式会社イノカ、水面清掃ロボットを開発しているスタートアップ企業の炎( ほむら )重工株式会社が採択されています。

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。