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2022年10月13日【エネルギー】

NTTデータとデンソー、車載蓄電池のエコシステム構築を開始

NEXT MOBILITY編集部

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NTTデータとデンソーは10月13日、秘匿データを保護しつつ必要なデータのみ相互流通できるセキュアな“データ連携プラットフォーム”の実現に向け、9月から着手した「電動車向けバッテリーに関する業界横断エコシステム」構築について、その目的や内容などを発表した。

現在、欧州において検討されている電池規制案では、「バッテリーのライフサイクル全体に於けるCO2の排出量や資源リサイクル率」を欧州委員会に開示すること、さらに将来的には日本企業がバッテリー式電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)などの電動車をヨーロッパ市場で販売する場合には、この欧州電池規制をクリアすることが求められると云う。

 

その対応のためには、各企業が個別に対応するのではなく、バリューチェーンを構成する様々な取引先とデータをセキュアに共有するための共通プラットフォームの整備が必要であるとし、NTTデータとデンソーは、共同事業検討のための基本合意書を締結。電動車向けバッテリーに関する業界横断エコシステムの実現に向けて、経済産業省の補助事業に共同で提案応募し、9月に正式に事業者として採択(注1)された。

 

両社は、2023年度中のサービス商用化を目指して、自動車業界・製造業向け共通プラットフォームの検討に着手する。

 

なお、このエコシステムで活用されるプラットフォームは、電動車向けバッテリーに留まらず、将来的に様々な産業に於ける企業間でセキュアにデータを活用できる次世代の情報インフラを目指すものであると云う。

 

 

1.背景

 

カーボンニュートラルの達成や資源循環型社会、人権デュー・デリジェンスの実現などの社会課題の解決には、サプライチェーン全体で各組織が保有するデータを正確に流通できる仕組みが必要であることから、各国では国や地域の商習慣や法規制の差異による阻害を受けないよう、様々な企業や団体と連携し、相互にデータを流通できるプラットフォームの検討を進めていると云う。

 

例えば、欧州でのデータ流通構想をまとめた「Gaia-X(注2)」や、ドイツの自動車メーカーやIT企業中心に「Catena-X(注3)」といった仕組みの構築が進んでおり、今後、ドイツの自動車関連企業と取引する日本企業も、「Catena-X」を利用したデータ流通を求められることが想定されている。

 

しかし、日本企業が欧州電池規制に従って「Catena-X」でデータを流通する場合、カーボンフットプリント(以下 CFP)情報に留まらず、自動車の構成部品の原材料や受発注に関する情報など、企業秘密にかかわるデータまでもが海外のデータセンターに保管されることになるため、情報管理の観点で日本企業にとって懸念となる可能性がある。

 

そのため、欧州のデータスペース(注4)と相互接続でき、日本のポリシーで安全にデータを管理できる日本独自の仕組みの実現が必要であるとして、NTTデータとデンソーの両社は、電動車向けバッテリーに関する業界横断エコシステムの構築に向け、電動車向けバッテリーに関するライフサイクルでのデータ管理を実現する自動車業界・製造業向けデータスペースの検討に着手することとした。

 

 

2.取り組み内容

 

両社は、電動車普及の前提となるバッテリーの業界横断エコシステム構築に必要とされるサプライチェーン上のCFP情報集計や、希少資源の環境・人権への配慮状況(人権・環境デュー・デリジェンス/以下、DD)の見える化を当該データスペース上で実現する仕組みを検討、その一環として、令和4年度の経済産業省補助事業に共同で応募し、9月に事業者として採択された。

 

今後は、関連団体と連携し、バッテリーの業界横断エコシステムに於けるCFP算出やDDの実施に関する情報などの共有・蓄積・連携を行う仕組みの検討を進めていくと云う。

 

NTTデータは、日本電信電話(以下、NTT)やNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)と共に当該プラットフォームの構築および、企業間の安全なデータ連携を実現するためのプラットフォームに接続する日本のデータスペースの実現に取り組んできた(注5)ことから、今回の検討に於いてもNTT Comと協力してデータスペースを構築する役割を担う。

 

一方、デンソーは、自社で開発したQRコードやブロックチェーン技術等を活用し、車載用バッテリー等のフィジカルに存在する「モノ」と個体に付随する電池寿命や原材料などの「データ」を結び付け、データプラットフォーム上で安全に個体情報を管理するためのトレーサビリティ技術を開発してきた経緯から、今回、将来的な幅広い産業でのトレーサビリティ技術の活用も視野に入れた、業界課題の整理や業務要件の検討を推進する役割を担う。

 

 

3.今後について

 

両社は、2024年から一部施行予定の欧州電池規制も見据え、当該データスペースの2023年度中のサービス商用化を目指す。また、今回の検討と並行して、これを運営する新団体設立の検討も開始。さらに日本国内で制度・システムを整え、これを日本車が普及しているアジア諸国へ展開し、将来的に国外でも幅広く利用できるプラットフォームを目指すとしている。

 

 

注1:経済産業省の補助事業(補助事業の事務局は低炭素投資促進機構)「令和4年度「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業費補助金(健全な製品エコシステム構築・ルール形成促進事業)」(カーボンフットプリント及びリユース・リサイクル並びにデータ連携基盤構築)」に応募し採択された。<https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/saitaku/2022/s220920001.html><https://www.teitanso.or.jp/case/

注2)Gaia-X:2019年10月にドイツ政府・フランス政府が発表した、セキュリティーとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのデータ流通構想。
注3)Catena-X:ドイツの自動車メーカーやサプライヤーなどが運営し、部品情報などのデータを関係する企業間で安全に流通するプラットフォーム。
注4)データスペース:単一のポリシーで管理されるデータ空間。
注5:NTTデータのこれまでの取り組みは以下の通り。

・欧州「GAIA-X」のコア技術「IDSコネクター」と「DATA Trust」を具現化した「SDPF」を連携させるデータ流通の実証実験を開始(2020年9月):https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2020/0928.html

・欧州「GAIA-X」のコア技術「IDSコネクター」との相互接続を実現するプラットフォームを試作CO2排出量の算出を想定した製造ラインデータの国際間流通に成功(2021年4月):https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2021/0408.html

・欧州「GAIA-X」に対応し企業間の安全なデータ流通を実現する国際データ流通プラットフォームの日欧連携共同トライアルを開始(2021年10月):https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2021/1014.html

・データ主権を保護できるデータ流通プラットフォームの実現に向けた共同開発(2022年4月):https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2022/042701/

・グローバルデータ連携基盤のアーキテクチャ構想に関するホワイトペーパーを公開(2022年5月):https://www.nttdata.com/jp/ja/news/information/2022/053100/

注6:iQuattro(アイクアトロ)とは、NTTデータが提供するビジネスコラボレーション&IoTプラットフォーム<https://iquattro.nttdata.com/>。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。